中国調達:海外帰任者の憂鬱
誰も知らない中国調達の現実(222)-岩城真
偶然なのだろうが、知り合いのビジネスパーソンが、昨年次々と海外から帰任してきた。その多くが待ちに待った帰任というより、後ろ髪を引かれる帰任だった。海外で充実した日々を送っていれば、期限付きのプロジェクトでもない限り、やりきったといった感覚になることはまずない。昨日より今日、そして今日より明日と、改善に終わりはないからだ。帰任の内示を受けたとき、きっと「あと1年、いや半年、せめて3カ月」といった気持ちになったことと思う。
筆者自身もそうだった。帰任後2~3カ月後に彼らと会って、酒を飲みながら話すと、組織の窮屈さと安定志向の保守的な同僚への不満を異口同音に語る。今までに海外から帰任した友人の多くが、再び海外に赴任する、あるいは所属企業を離れ外資への転職といった道を歩んでいる。海外勤務を経験すると、なぜ、国内に活躍の場を見出せなくなってしまうのかを今回は考えてみたい。
海外赴任、特に新興国に赴任すると、国内勤務時代と比較してかなり高い職位が与えられることが多い。国内では管理職でない主任が部長になり、国内の課長、部長が、工場長、総経理(社長)といった感じである。海外であっても、それなりの職位になれば相応の責任や権限が与えられる。国内では技術一辺倒だったエンジニアが、組織のマネージメントはもちろん、財務や労務にまで頭を悩ませることも多々ある。そのことが負担になり、日本と異なる生活ストレスと相まって潰れる人材もいる。その一方で、短期間で分不相応に思えた職位に見合うまでの成長をする人材もいる。後者が、まさに海外で充実した生活を送っていた人である。
それでは、なぜ企業は、海外赴任者に高い職位を与え事業の運営を任すのか。かつては、新興国市場を軽視していたといった理由もあったと思う。しかし、そのような発想では、現在の新興国事業は立ち行かなくなる。国内事業では依然として経験がモノを言うことが多いが、ビジネス環境の変化の激しい新興国では経験よりも変化への対応力が求められ、若い人材でも十分に勝負できるといった建前と、新興国での経験豊富な人材そのものが企業内に少ないといった現実の問題から、若い人材が送り込まれるのである。
理由がどうであれ、困難なミッションを自身のスキルアップのツールにしてしまうポジィティブな人材は、海外赴任を機にグッと成長する。海外では自身の責任と判断で事業を進めてきた人材が、日本の組織に戻ると、社外との折衝よりも社内の稟議にエネルギーを費やさなくてはならない企業風土に辟易としてしまうのである。変化の激しい海外では、立ち止まること、何もしないことが最大のリスクとなるが、日本国内は依然として石橋を叩いても渡らないほど、何かを変えることに臆病になっている。グローバル化する現代に於いては、国内であっても何もしないことは最大のリスクであるのだが・・・。海外駐在時代が充実していれば充実していたほど、国内の組織や同僚の“重さ”に愕然とし、愚痴りたくなるのは既述の通りである。
海外で大きく育った人材の活躍の場を国内で用意できないのも、体質の古い日本企業の苦悩だと思う。日本企業も、成果の有無と無関係に年齢で昇格させるような年功序列の人事制度はなくなりつつあるが、主任で海外に赴任し、海外で部長職をまっとうした人材だからといって、帰任後に本社の部長職のポジションを用意する企業はまずない。実際、日本の組織は、それでは上手くいかないだろう。優秀な人材といっても、その中での年功序列が依然として存在するのである。
そうなると、海外で育った優秀な人材は、再び海外に派遣して活躍してもらうしか選択肢がないのも日本企業の現実ではないだろうか。後ろ髪を引かれて帰任した人材であるから、ビジネスパーソンとして再び海外で活躍の場を与えられることは大歓迎かもしれないが、人には家庭人としての側面もある。それを考えていくと非常に複雑で、海外で養ったマネージメントスキルを活用できる場が国内に見いだせず、優秀な人材が社外に流出してしまうのは残念なことである。筆者は海外で活躍した人材をどう活用するかをマネージメントできる立場ではない。どちらかといえば、国内で悶々としている側である。筆者が自身を海外で成長した優秀な人材だと思っていないのは記すまでもないことだが。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
偶然なのだろうが、知り合いのビジネスパーソンが、昨年次々と海外から帰任してきた。その多くが待ちに待った帰任というより、後ろ髪を引かれる帰任だった。海外で充実した日々を送っていれば、期限付きのプロジェクトでもない限り、やりきったといった感覚になることはまずない。昨日より今日、そして今日より明日と、改善に終わりはないからだ。帰任の内示を受けたとき、きっと「あと1年、いや半年、せめて3カ月」といった気持ちになったことと思う。
chaina,column
2014-02-10 09:30