進む人民元の国際化の中で―日本は今何をすべきか

日本経営管理教育協会が見る中国 第293回--水野隆張(日本経営管理教育協会営業部長) ● 人民元の国際決済通貨としての順位が世界第8位に   昨年(2013年)12月の国際銀行間通信協会(SWIFT)の発表によると、人民元の国際決済通貨としての順位は世界8位になったということである。現在の取引シェアのトップ3は、米ドル、ユーロ、ポンドの順だが、人民元はシンガポールドルと香港ドルを抜きスイスフランに迫る勢いで、10大国際決済通貨の一つとなっている。   アメリカのブッシュ大統領の時代には、人民元の価値の低さにより価格が不当に安く据え置かれた中国製品がアメリカの対中貿易赤字の増加を招いているとして、アメリカは中国政府に対して様々な圧力をかけていた。   ところが、2008年9月のリーマンショック以降の米国発サブプライムローン問題とユーロ圏債務問題に端を発する世界的経済危機を受けて、ドルとユーロを中心とする国際通貨体制への信任が問われるようになった。このような状況の下で、中国政府は、人民元の国際化を積極的に進めるようになり、その成果も実りつつある。 ● 経常取引と資本取引における人民元の使用が増加している   中国は2009年以降、貿易を中心とする経常取引と、資本取引における人民元の使用できる範囲を段階的に拡大してきた。2012年6月からはすでに全ての企業が人民元で貿易取引を決済できるようになっている。   経常取引だけではなく、資本取引の面においても、人民元の国際化が漸進的に進められている。2010年7月には、香港での人民元建て金融商品の組成が緩和され、香港現地法人や非居住者にまで香港人民元建て債券、愛称は「点心債」発行が相次いでいる。2011年10月には外国企業による人民元建て直接投資も解禁された。そして、2011年12月に、外国投資家が中国本土外で調達した人民元を中国本土の株式・債券に投資することを認める「人民元適格外国機関投資家」制度が発表されている。 ● 人民元が基軸通貨の一つとなる可能性も有り得る?   2010年8月にGDPで日本を抜き世界第2位の経済大国になった中国だが、最近ではその成長にも陰りが見え始めており「シャドウバンキング」等の問題もあっていずれは日本のようにバブルが弾けて中国経済は崩壊するのではないかとの予想も出始めている。   しかしながら中国はこの10年ほど、猛烈な勢いで高速道路や新幹線を全国に張り巡らせている。中国のGDPの3分の2は、これらのインフラ整備によって生み出されたものである。そして、この大規模なインフラ整備によって、企業は沿岸部から内陸部に工場を移転し易くなり、国土の均衡ある発展と貧富の格差是正につながる可能性を秘めている。   これまで中国は世界の工場と言われ、安い労働力を活用して輸出主導型の経済で成長を続けてきたが、これからは世界の市場として内需主導型の経済成長に転換するとみられている。   20世紀の前半に世界の覇権は大英帝国から米国に移転したが、それを引き起こした要因の一つには、米国が19世紀の後半に、全国的に鉄道や道路など最新鋭のインフラを整備して、国民の所得を増進し、国内市場を活性化させて欧州よりも強固な経済基盤を確立したことだと言われている。   中国は、米国に見習ってインフラと国内市場の強化を進めている。今後中国が欧米と肩を並べる覇権国家となるならば、人民元が国際基軸通貨の一つになる可能性もあるだろう。 ● 日本は人工的基軸通貨の創設を積極的に提案すべし!   アジア開発銀行(ADB)は、最近日本円と人民元を並列的に扱う「アジア共通通貨」構想について、この構想は現実的ではなく、人民元が急速に国際化しており人民元がアジアにおいてドルに代わる基軸通貨になるという予測を打ち出している。国際通貨としての日本円の評価が低下しているのである。   しかしながら今の段階では中国は、人民元を米ドルに代わる基軸通貨とするという準備も明確な戦略も持ち合わせてはいないと思われる。そうであるならば各国の利害がからんで簡単でないことは明らかではあるがこの際日本がSDRのような国際的準備通貨の創設を積極的に呼び掛けるべきではないだろうか?   そうしないと米ドルへの信頼が世界的に揺らいでる中で日本円はやがて米ドルと無理心中をさせられる悪夢も現実とならないとは言い切れないであろう。(執筆者:水野隆張・日本経営管理教育協会営業部長 編集担当:水野陽子)            http://news.searchina.ne.jp/topic/025.html  日本経営管理教育協会
昨年(2013年)12月の国際銀行間通信協会(SWIFT)の発表によると、人民元の国際決済通貨としての順位は世界8位になったということである。現在の取引シェアのトップ3は、米ドル、ユーロ、ポンドの順だが、人民元はシンガポールドルと香港ドルを抜きスイスフランに迫る勢いで、10大国際決済通貨の一つとなっている。
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2014-02-12 11:00