楽観と慎重が入り混じる市場-リスク要因の冷静な見方-=村上尚己
1月後半からのマーケット波乱を引き起こしたのは、新興国通貨下落と米経済指標の下振れだった。2月に入ってこれらの悪材料への警戒が和らぎ、今週、米国株はかなりリバウンドしている。一方、国際商品市況では、安全資産とされる金先物価格の上昇が続くなど、「楽観」「慎重」の両者の見方が依然入り混じっている(日本株市場は慎重な見方が多いのだろう)。
新興国の混乱や経済停滞が、米国を含め世界経済全体の足かせになるのか?通貨安に見舞われた新興国の経済規模は小さいので、世界全体に及ぼす影響は限られるが、かつて小国ギリシアの混乱を引き金に欧州全体が景気後退に陥り、世界経済の足かせになった例もある。
このリスクを考える上で、新興国通貨下落のきっかけの一つになった、「中国リスク」をどうみるかが重要になる。2013年半ば以降、いわゆる理財商品に起因するリスクに対する懸念が燻り続けており、政府の対応を含め中国については不確実性が高い。
一方、先進国経済の回復が今後続くので、中国などの新興国経済の成長が高まるシナリオも考えられる。中国の輸出依存度(対GDP比)は約50%で、他の新興国同様に外部環境で景気動向が左右される面も大きい。輸出回復で中国を含め新興国全体の安定が続けば、新興国リスクに起因する市場の不安心理も早晩和らぐ(これが筆者が想定しているメインシナリオ)。
1月分の中国の経済指標のうち、企業景況指数が既に発表されこれらはやや悪化したが、旧正月の要因の影響を踏まえると、やや停滞しているという程度である(2月3日レポート)。今週(2月12日)1月の貿易統計が発表されたが、輸出が前年比+10.6%と大きく伸び、景況感指数とは逆の結果となった。素直に受け止めれば、中国経済が輸出回復で支えられており、さらに輸入も大きく伸びているのは、生産活動が衰えていないと見ることができる(グラフ参照)。
もちろん、中国企業が輸出金額を水増ししていた問題(主に香港経由での輸出取引)が2013年に発覚しており、同統計を鵜呑みにするのは危険である。前年同様に輸出が水増しされている可能性がある。ただ、地域別にみると企業の水増しが難しいとされる米欧日など先進国への輸出が全体の伸びを牽引している(グラフ参照)。輸出全体は、旧正月の歪みや「水増し」である程度は過大に算出されているだろうが、それを割り引いても、米欧向けが輸出好調で2013年央以降から緩やかな回復が続いているとの評価は可能だろう。
信憑性が疑わしい中国の貿易統計だけでは心もとないので、アジアから米欧への輸出のバロメータになる、韓国、台湾の1月分の輸出をみると、12月対比で減少しており単月では冴えない数字である。大きく伸びた中国の輸出は若干水増しされているだろうが、2013年前半まで横ばいで推移していた両国の輸出が、同年半ばから持ち直し始めたトレンドが変わったとまでは言い難い(グラフ参照)。
これらを踏まえると、中国を含め東アジア経済が、2013年後半からの先進国への輸出で支えられる構図は続いている。新興国リスクに起因するリスクを、現段階では過度に悲観的にみる必要ないだろう。また、2月12日レポートでも述べたが、今回新興国通貨の下落が広がる中で、アジア地域の通貨は落ち着いている。先進国経済の成長でアジア経済が支えられているのが一つの要因かもしれない。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
1月後半からのマーケット波乱を引き起こしたのは、新興国通貨下落と米経済指標の下振れだった。2月に入ってこれらの悪材料への警戒が和らぎ、今週、米国株はかなりリバウンドしている。一方、国際商品市況では、安全資産とされる金先物価格の上昇が続くなど、「楽観」「慎重」の両者の見方が依然入り混じっている(日本株市場は慎重な見方が多いのだろう)。
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2014-02-14 17:15