「鴻海、シャープ買収」が暗示する日本製造業の未来

 誰も知らない中国調達の現実(249)-岩城真  だいぶ以前から、「いずれは」と誰もが想定していたことなので、大きな衝撃ではなかったように思う。ほぼ同時期に、東芝の白物家電部門の中国・美的集団への売却が決定、巷では、「アジア系企業に飲み込まれる日本製造業」といった捉え方がされているが、筆者は「下請企業に飲み込まれるオンリーワン技術を持ったセットメーカー」というまったく別の視点で捉えた。  “下請”という言葉から想起されるように、発注者である元請企業と賃加工業者や部品サプライヤーとの間には、絶対的な上下関係があると思われている。実際、過去には、そのような時代もあった、また現在でもそのような関係の取引もある。ざっくばらんに書くと、美味しいところはセットメーカーに吸い取られ、搾取されるばかりの下請企業というのが、一般的なイメージなのだ。そのような不遇からの脱却として、発注者との立場を逆転させる“オンリーワン技術”と下請そのものから脱皮する“自社製品開発”の二点が、これからの日本の中小製造業のあるべき姿かの如く語られている。筆者は、いつも「ちょっと違うぞ」と警鐘を鳴らしてきた。その不安の顕在のひとつが、鴻海精密工業のシャープ買収である。  鴻海精密工業は、アップルを筆頭に電子機器セットメーカーから組立を請け負うEMS(電子機器の受託生産)企業である。一方、シャープは説明するまでもなく電気製品のセットメーカーであるとともに外販もする。液晶製造では、オンリーワン技術を有する。そう、日本の中小下請け企業が目指していた“オンリーワン技術”と自社製品を持つ企業なのである。そのシャープを買収したのは、“アップルの下請”鴻海精密工業なのだ。  “オンリーワン技術”という言葉は、口当たりが良いのか、日本人は大好きで、様々なところで全肯定されてきた。昨年のヒットドラマ「下町ロケット」でも、“オンリーワン技術”を武器に大企業と対等に渉りあう中小企業が描かれていた。しかし、ロケット製造は、ものづくりの中では、象徴的な存在であってもボリュームゾーンを占めるものではない。特殊なものづくりであるロケット製造の世界で“オンリーワン技術”を武器に大企業・帝国重工と渉りあった中小企業・佃製作所のケースは、製造業全体の中では、レアケースでしかない。現にシャープのオンリーワン技術は、巨人・アップルに採用されることなく、競合サムスンでも製造可能なレベルにスペックダウンを強いられた。なぜならアップルは、シャープの高解像度液晶 がなくとも自社製品の商品力を確保できると判断したし、現にそのようになった。また、調達視点では、競合環境の構築できない部品の排斥は、正しい判断である。つまり、“オンリーワン技術”は、セットメーカーとの立場を逆転、あるいは対等にする切り札にならない。  鴻海精密工業とアップルは、必ずしも絶対的な上下関係であると筆者は考えていない。数年前に鴻海精密工業の中国現地法人・富士康科技集団(フォックスコン)の中国人従業員の自殺が連発したことがあった。CSRとその風評に敏感な欧米企業であるアップルは、フォックスコンとの取引を中止するか、大幅に縮小するのではないかと筆者は考えたが、改善の指導に留まり、そのままの取引を継続している。フォックスコンなしには、アップルの事業が成立しないほど、フォックスコンはアップルに食い込んでいたのである。アップル製品の組み立てを請け負うフォックスコンは、何を持っていたのか?フォックスコンには、シャープのような“オンリーワン技術”は無い。しかし、競合するEMS企業が追随を許さないほどの短期間の新製品の立ち上げ、大量生産、低価格を実現する術を持っていたのである。  小さな改善を積み重ねることで、円高や人件費の高騰を克服してきた日本製造業は、突出した技術開発よりも、既存製品の生産技術をブラッシュアップすることで、競合企業の追随を許さない圧倒的なスピードやコストを実現する可能性を持っていると筆者は考えている。 また、多くの新興アジア企業が、日本企業を手本に成長したことも忘れてはならない。“オンリーワン技術”への盲目的な傾注が日本製造業の衰退を加速させないことを筆者は、ただ祈るばかりである。(執筆者:岩城真 編集担当:大平祥雲)(イメージ写真提供:(C) Eric Dufour/123RF.COM)
誰も知らない中国調達の現実(249)-岩城真  台湾・鴻海精密工業のシャープ買収が確定してから速くも1ヶ月間が経過した。(イメージ写真提供:123RF)
china,column
2016-05-11 14:00