「黒田ライン」突破あるか?カギ握る日米の金融政策 外為オンライン・佐藤正和氏

 ロシアによるウクライナ侵攻の影で、外為市場が大きく動いている。「黒田ライン」と呼ばれる1ドル=125円台に近づいたドル円相場では、久々に急激なドル買い円売りのトレンドが強まり、一時的に125円台にまで円が売られた。今回の急激な円安の背景には一体何があるのか・・・。今後、「黒田ライン」を突破して、さらなる円安が進むことはあるのか。外為オンライン・アナリストの佐藤正和さん(写真)に4月相場の見通しを伺った。  ――3月下旬に始まった急激な円安の背景には何があるのでしょうか?  一言でいうと、日本と米国の金融政策の姿勢の違いが、急激な円安をもたらしていると考えられます。米国のインフレ率は、今や7%台に定着しており、3月に米国の中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)が実施した「0.25%」の金利引き上げにもかかわらず、インフレの動きは止まりそうもありません。  すでに、5月に予定されているFOMC(米連邦公開市場委員会)では、「0.5%」の金利引き上げ実施が、マーケットでは織り込み済みと言われており、米国の中央銀行は明確に金融引き締めの姿勢にシフトしています。  一方の日本銀行は、1部インフレの動きは見えているものの、金融緩和の姿勢は崩しておらず、当面はマイナス金利、イールドカーブコントロールといった金融緩和政策を続けていく姿勢を堅持しています。両国の金融政策への姿勢の違いから、金利差はさらに拡大するとして、「ドルを買って円を売る動き」に拍車がかかっていると言って良いでしょう。  ――とりあえず4月以降のドル円市場はどんな展開になるのでしょうか?  今回の1ドル=125円の攻防では、日本銀行が金利上昇を抑えるために3日連続で長期国債を0.25%で無制限に買い入れる「指値オペ」を実施。その影響で急速な円安が進み1ドル=125円10銭まで円安が進みました。その後、達成感が出たことや黒田総裁と岸田首相の会談が報道され、急速に円高に巻き戻されることになりました。  とは言え、日米の金融政策の違いは明確であり、今後も断続的にドル買い円売りの相場が繰り返されるのではないかと考えられます。その一方で、テクニカル的に見れば120円前後が重要な水準となっており、120円を割り込んで行くようなことがあれば、さらなる円高に動く可能性も残っています。  いずれにしても、日銀は長期金利が「0.25%超は許容しない」という姿勢を明確に示したことになり、「中央銀行には逆らうな」という市場の格言に従って、トレンドが反転したと考えられます。そう簡単には125円の黒田ラインを超えらないということです。  ――気になるのは、日本でもインフレが進んでいることですが、その影響は……?  新型コロナウィルスによるインフレに加えて、ロシアによるウクライナ侵攻が世界全体の物価上昇に拍車をかけています。たとえば、比較的物価の優等生だったドイツもEU基準のCPI(消費者物価指数)で「7.6%(3月、前年同月比、ドイツ連邦統計庁)」を記録しています。  当然、日本も遅かれ早かれインフレに悩まされる時が来るかもしれません。米国やEUが「インフレ退治」に向けて金融引締めに方向転換していく中で、日本はいつまで現在の金融緩和政策を維持できるのか。そこがポイントになります。  もし、黒田ラインを越えて円安が進んでいくようなことになれば、米国のコンセンサスを得た上で「ドル売り」による、円安の勢いを止める市場介入に転換せざるをえないときが来るかもしれません。  ――ロシアへの経済制裁で、ロシア国債のデフォルト懸念が高まっていますが?  ロシアの国債が債務不履行に陥った場合、最も大きな影響受けるのは欧州の銀行になると思います。大きなエクスポージャー(リスク資産残高)を抱えており、その影響がストレートに出てくる可能性があります。  また、原油や天然ガスの支払いをルーブルで行うよう求めているロシアに対して、G7では拒否する姿勢で同意しており、場合によってはロシアからの原油やLNGの供給が止まる可能性も出てきました。原油価格なども、1バーレル=150ドルとか200ドルといった予想も出ています。どちらにしても、インフレへの警戒が強く、金融引き締めの方向に向かうことになると思います。 ただ、米国や日本への影響はそれほど大きくないため、ドル円相場への影響は限定的かもしれません。ロシアの経済規模も世界全体から比較するとそれほど大きなものではなく、欧州を除けば大きな影響はないと考えられます。  ――4月相場の予想レンジを教えてください。 4月は、日銀の金融政策決定会合やFOMCはないものの、ウクライナやインフレを想定させる統計などが発表されれば、その都度、相場は大きく乱高下すると考えたほうがよさそうです。   たとえば、この4月1日夜に発表される米国の雇用統計も、市場予想では49万人となっていますが、前回は予想を大きく上回る67万8000人でした。大きなサプライズがあるかもしれません。また、失業率は前回よりわずかに改善して3.7%と予想されています。4月の予想レンジは次の通りです。 ●ドル円・・1ドル=120円-126円 ●ユーロ円・・1ユーロ=133円-139円 ●ユーロドル・・1ユーロ=1.09ドル-1.13ドル  ●英国ポンド円・・1ポンド=157円-163円  ●豪ドル円・・1豪ドル=90円-94円  ――4月の為替相場で注意すべきこととは?  これまで日本の国内情報は、ほとんど為替市場に影響をもたらしませんでしたが、先日日銀の黒田総裁と岸田首相が会見したというニュースが流れただけで、円高に大きく振れました。今後は日本国内のニュースにも、ある程度敏感になっておく必要があると思います。  もうひとつ大切なことは、このところの急激な市場の動きを見てもわかるように、これまでと同じ感覚でトレードをすると失敗する可能性が高いと言うことです。現時点では1ドル=120円前後がひとつのポイントになり、また1ドル=125円の黒田ラインも大きな分岐点になります。  ボラティリティーが大きいためチャンスは数多くありますが、思い込みによるトレードには注意したいものです。ロシア情勢や統計の状況、そして日本国内のニュース等にも目を向けて情報収集しながら、トレードすることをお勧めします。(文責:モーニングスター編集部)。
今後、「黒田ライン」を突破して、さらなる円安が進むことはあるのか。外為オンライン・アナリストの佐藤正和さん(写真)に4月相場の見通しを伺った。
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2022-04-01 20:15