不透明な市場環境でも堅調なETF市場、「防衛テック」や「インフラ」など多様で魅力的な成長機会にチャンス

米国のトランプ政権が2025年4月に打ち出した大規模な関税政策が世界の市場を混乱させた。90日間の執行停止期間に米国との貿易交渉が進められているが、その着地点は不透明だ。早期の停戦合意が図られたウクライナ戦争の停戦交渉もまとまる見通しが立たない中、イスラエルがイランを攻撃するなど中東地域の緊張は一段と高まってきた。依然として不安定な国際情勢、経済環境を抱え、通常は不透明期には投資が手控えられる傾向が強まるものの米国のETF市場は2025年も堅調に推移しているという。米国を拠点とするETF専門の資産運用会社 グローバルX(NY)のHead of International Business Development & Corporate Strategyのロハン・レディ氏(写真)に、米国ETF市場の現状と展望について聞いた。
――米トランプ大統領の関税政策によって米国株式市場をはじめ世界の株式市場が大きく動揺しました。現在でも貿易交渉の着地点が見えず市場の不安は解消されていませんが、現在の市場についてどのように見ていますか?
4月2日「解放の日」に発表されたトランプ政権の関税政策は、事前に市場が予測していた経済的損失を上回る規模であったため、市場が大きく動揺することになりました。また、繰り返される関税の導入と撤回に関する発言が市場を不安定にしています。
ただ、経済のファンダメンタルズは健全な状態にあるといえます。先行きに対する不安は、あくまで政策要因によるもので、家計や金融機関は健全な状態を保っているため、政策の見直しや緩和が進めば、再び成長が加速する可能性も残されていると思います。総じて先行きに対しては楽観的な見方をしています。
――現在のETF市場の動向は?
投資家は、次に何が起こるのか、どのような戦略が魅力的なのかについてさまざまに考えているところだと感じます。「NASDAQ100」や「S&P500」といった伝統的なインデックスにも引き続き資金流入があり、セクター別ではハイテクセクターへの物色意欲が強い他、さまざまなタイプのETFが物色の対象になっています。
その中にあって比較的まとまった資金が入ってきているのが「防衛」をテーマにしたETFです。「グローバルX 防衛テック ETF(SHLD)」は、防衛技術の導入と活用の拡大から利益を得ることができる企業に投資します。弾薬や戦車を製造するドイツの「ラインメタル」、世界の防衛・諜報機関、災害救援組織などにソフトウェアを提供する米「パランティア・テクノロジーズ」、世界有数の防衛関連企業である米「ノースロック・グラマン」や「ロッキード・マーチン」など、軍需産業としてイメージされるような企業を主要な投資対象にしています。組み入れ銘柄の上位にあるドイツの「ラインメタル」は2025年の年初から株価が約3倍に上昇しました。
防衛テックが注目される背景は、2020年以降に世界の防衛費が着実に拡大していることが背景です。ウクライナ戦争や中東地域の緊張などによって、2023年の世界の防衛費は史上最高の2.4兆ドルに膨らみました。その後も年率5%程度のペースで増加し、2030年には3.4兆ドルの市場になると予想されています。世界経済が不安定で予測し難い中にあっても着実な成長が期待できる市場として防衛産業が注目されています。「SHLD」は2023年9月に上場しましたが、上場直後から市場の注目を集めて順調にAUM(運用資産残高)を伸ばしてきました。そのAUMは2025年の年初から10億ドル拡大し、20億ドルに倍増しました。
また、リスクを抑えた運用を好む投資家には「グローバルX NASDAQ100・カバード・コール ETF(米国上場:QYLD、東証上場:2865)」のようなカバード・コール戦略も人気があります。「QYLD」は、ナスダック100指数の全銘柄を保有した上で、毎月同指数対象のコール・オプションを売却します。そして、コール・オプションを売却することで得られるプレミアムの一部を毎月当ETFの投資家に分配しています。コール・オプションを売却することによって、権利行使価格以上の値上がり益を放棄する代わりにプレミアムが受け取れるのです。リターンを限定する代わりに着実な分配収入を得たいと考える投資家も多くいます。
この他にも、米国のインフラ関連の企業に投資する「グローバルX 米国インフラ関連 ETF(PAVE)」にも根強い人気があります。米国で「インフラ投資・雇用法(IIJA)」が本格的に始まったことで、2024年12月時点でIIJAから5680億ドル(約85兆円)が全米6万6000件のインフラ・プロジェクトに割り当てられました。たとえば、ニュージャージー州とニューヨーク州の北東回廊鉄道路線の拡張と改修のための「ハドソン・トンネル・プロジェクト」に69億ドル、「ゴールデン・ゲート・ブリッジ」の改修・補強などに4億ドル、「ヒューストン湾」の拡張のために1.43億ドルなどさまざまな分野にわたって投資が進みます。IIJA以外にも「インフレ削減法(IRA)」や「CHIPS・科学法」などでも重要なインフラ・プロジェクトが計画され、投資総額は1兆ドルに及ぶ計画があります。ここに確かな成長機会があります。「PAVE」は個人投資家というよりも機関投資家の需要が強いのが特徴で、機関投資家の資金は一度入ってくるとなかなか流出しないという特徴があります。
――これからのトレンドになるような動きはありますか?
今後の動きをコレと決めつけることは難しいです。むしろ、さまざまな動きに備えるため、特定の分野に集中して投資するよりも、少額で複数のETFに投資する分散投資が重要だと思います。ETFは少額で投資することができますから、分散投資のツールとしては最適です。2025年になってETF市場が一段と盛り上がってきているのも、さまざまな投資戦略があり、それらに少額から投資できるというETFの特性が評価されたためと考えられます。
「SHLD」や「PAVE」は中長期的に着実な需要が期待できる分野として現在、人気を集めていますが、より大きな成長が期待できる分野として「AI(人工知能)」の成長に期待する投資家は少なくありません。「グローバルX AI&ビッグデータ ETF(米国上場:AIQ、東証上場:223A)」はAI関連事業の成長に投資するETFです。「SHLD]や「PAVE」などが政府予算などを通じて計画的に着実に投資が進むのに対して、AI関連投資は民間主導で成長のアップダウンが大きい産業という側面があります。その点では、安定感のある「PAVE」などとボラティリティ(価格変動率)が比較的大きい「AIQ」や水素などの新エネルギーに投資する「グローバルX 水素テック ETF(HYDR)」などを分散投資で保有するという考え方もできると思います。
少額から投資ができるというETFの特性を生かした分散投資を検討してください。
グローバルX(NY)のロハン・レディ氏(写真)に、米国ETF市場の現状と展望について聞いた。
economic,company
2025-06-19 02:00