FRONTEO:「共創型創薬エコシステム」で創薬新時代へ

 FRONTEO <2158> は自社開発の特化型AI(人工知能)「KIBIT(キビット)」を活用した幅広いサービスを展開している。中でも、現在はライフサイエンスAI事業に注力。日本はかつて新薬開発の評価が高かったものの、近年は創薬力の低下が懸念されている。しかし、同社のAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」を核とした「FRONTEO共創型創薬エコシステム」を利用すれば、これまでの創薬手法が根本から変わり、創薬事業が日本発の新時代を迎えると期待される。  医薬品開発では最初のプロセスとして、新しい標的分子を探し出し、その作用機序などの情報を裏付ける仮説生成を行う必要がある。そのため、まず膨大な論文を参照しながら、2万-3万個あるといわれる遺伝子と、それに関連する分子の中から、創薬標的分子候補を見つけ出さなければならない。そのプロセスには多大な時間とコストが掛かることから、近年の創薬関連研究は既知の標的分子に集中し、潜在的に有望な未知の分子はほぼ手付かずで放置された状況にある。そのため、創薬標的分子が枯渇しているといわれており、Best-In-Class(同クラスの中で優位性のある医薬品)の開発から抜け出せない製薬企業も多く、結果的に新薬開発力の低下につながっている。また、このことが希少疾患など市場規模の小さいアンメット・メディカル・ニーズ(治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)への対応が困難になっていることの要因になる。  「いまや創薬分野で大きな成功を収めるには、First-in-Class(画期的な医薬品)の創薬が必要となっており、いかに新規性があって有望な創薬標的分子候補を迅速に見つけ出すかが重要。そのためのシステムとして当社は『DDAIF』を開発し活用している」と、同社でライフサイエンスAI事業をけん引する豊柴博義取締役・CTO(最高技術責任者)はいう。  「FRONTEO共創型創薬エコシステム」の核となる「DDAIF」を利用すれば、膨大な論文の中で出現頻度が少ない単語でも即時解析できる上、独自のアルゴリズムにより、既知の情報からの発見にとどまらず、既知の情報から未知の発見、いわば人間の「ひらめき」のような、非連続的発見を導くこともできる。このアルゴリズムは同社が特許取得済み。さらに、「DDAIF」は具体的に創薬にかかわる標的分子候補の選定後に、その適応症仮説をハイスループット(短時間で迅速に大量のサンプル・条件・候補を処理・評価すること)で生成できる。標的分子候補発見後に、バイオロジカルな分子間ネットワーク上における関連化合物の位置関係や、適応症候補の検討、バーチャル実験によるシミュレーション、患者層や安全性に関する情報など、多次元的な解析を行うことで、いわば創薬の設計図ともいえる仮説生成を実現する。  また、「DDAIF」は世界的な学術出版社であるシュプリンガーネイチャーからの評価も高く、同社はシュプリンガーネイチャーと2024年2月に、シュプリンガーネイチャーが出版する約600誌、25年分の論文のフルテキストデータ(センテンス数3億5000万)をAIで活用できる契約を世界で初めて締結した。シュプリンガーネイチャーの膨大な論文の中に数多くの標的分子候補が隠れているといえ、それを今後は同社がAIを使って明るみに出していくことが可能となっている。その結果、希少疾患を含む多様な疾患に関する新規治療薬候補を見出すことも期待され、現在の創薬業界の課題解決にもつながる。  同社の守本正宏社長は「AIによる非連続的発見が可能になったことには、私としても非常に驚いた。膨大な論文の中には無数の創薬標的候補分子が存在するとみられ、『DDAIF』により、今3月期中にも具体的な発見があるだろう」と語った。  現在、AIは化合物の探索や最適化、臨床試験などに活用されるものの、医薬品開発の入口である仮説生成にはほぼ使われておらず、今後は「DDAIF」と、それを核とした「FRONTEO共創型創薬エコシステム」の重要性が世界的に高まっていきそうだ。将来的には創薬標的候補分子の発見と仮説生成に「FRONTEO共創型創薬エコシステム」が不可欠ということになれば、同社は医薬品開発の在り方を根本から変えることになろう。  一方、同社はドライ研究に強みを持つが、ウェット研究(生物学的検証)の設備はないため、国立大学法人東京科学大学と協力し、共同研究を進めている。東京科学大学は細胞染色画像からタンパク質の共変動ネットワークを構築する「PLOM-CON」を持つ。今回の共同研究では、「DDAIF」を通じて創薬の標的候補となる分子の抽出など仮説生成を行った上で、「PLOM-CON」を用いて薬効発現機序の解析を実施する。これにより、ドライ-ウェット間の分断を解消し、短期間で新規性と成功確率の高い創薬候補の標的分子を同定し、その後の創薬につなげていく。 「DDAIF」の仮説生成技術により副次的な効果も  従来の創薬事業は、アカデミア、バイオベンチャー、製薬企業が創薬プロセスを分担する、水平分業型創薬スキームが多かった。しかし、専門領域の細分化による連携不足から創薬プロセスが分断され、各工程がそれぞれ孤立した形で研究が進む傾向が出てくるため、同スキームの生産性向上の効果は限定的だった。しかし、同社の「FRONTEO共創型創薬エコシステム」は疾患領域やモダリティに応じて最適な共創パートナーと協業体制を構築し、「DDAIF」を中心に、ドライ研究(データ解析)から、モダリティ探索・最適化、前臨床・臨床試験までの創薬工程を一貫して進める点が強み。これにより、創薬プロセス全体の生産性を最大化し、開発期間の短縮と創薬の成功確率の向上を実現する。 「DDAIF」商標登録で米国進出図る  テクノプロの社内カンパニーであるテクノプロ・R&D社(東京都港区)とも、創薬における研究開発ソリューションに関する戦略的業務提携契約を締結し、同社がドライ研究、テクノプロ・R&D社がウェット研究を担うことで、創薬候補の提供を図っている。そのほかの協業では、熊本大学と新たながん治療法探索に関する共同研究を開始しているほか、製薬会社のEAファーマ、中外製薬 <4519> とそれぞれ「DDAIF」を活用した「共創プロジェクト」による、標的分子の探索を推進中。国内にとどまらず、米国進出も目指しており、1月に「DDAIF」を米国特許商標庁において商標登録した上で、米国コンサルティング会社と戦略パートナー契約を締結した。  今後も同社のAI創薬に関する進ちょくについて注目していきたい。
 FRONTEO <2158> は自社開発の特化型AI(人工知能)「KIBIT(キビット)」を活用した幅広いサービスを展開している。中でも、現在はライフサイエンスAI事業に注力。日本はかつて新薬開発の評価が高かったものの、近年は創薬力の低下が懸念されている。しかし、同社のAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」を核とした「FRONTEO共創型創薬エコシステム」を利用すれば、これまでの創薬手法が根本から変わり、創薬事業が日本発の新時代を迎えると期待される。
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2025-06-19 09:45