FRONTEO、「DDAIF」の活用推進
FRONTEO(2158)は現在、自社開発の特化型AI(人工知能)「KIBIT(キビット)」について、ライフサイエンスAI分野のAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」に注力している。同サービスを活用すれば、十数年かかるといわれる創薬の標的分子の探索が劇的に短縮されるとし、実際に7月にすい臓がんの創薬標的分子候補を2日で抽出する事に成功した。今後は本格的な創薬事業に取り組んでいくとともに、さらなる新しい標的分子の発見にも力を入れる。将来的には同サービスの利用拡大により、創薬事業が日本の代表的な産業となる時代も予想されよう。
「DDAIF」は独自の自然言語処理AI技術を用いた高いデータ処理力を持ち、数千、数万もの膨大な文献情報を解析し、2万~3万個あるといわれる遺伝子と、それに関連する分子の中から、創薬に関して成功確率の高い標的分子を迅速に見つけることができる。独自のアルゴリズムにより、既知の情報からの発見にとどまらず、既知の情報から未知の発見、いわば人間の「ひらめき」のような、非連続的発見を導くことができる点が強みだ。このアルゴリズムは同社が特許取得済み。
それに加えて、「DDAIF」は創薬にかかわる標的分子候補の選定後に、その適応症仮説をハイスループット(短時間で迅速に大量のサンプル・条件・候補を処理・評価すること)で生成することも可能となっている。さらに、バイオロジカルな分子間ネットワーク上における関連化合物の位置関係や、適応症候補の検討、バーチャル実験によるシミュレーション、患者層や安全性に関する情報など、多次元的な解析を実施することで、作用機序などの情報を裏付ける、いわば創薬の設計図ともいえる「仮説生成」も行う。
「仮説生成」の後には、標的分子候補から作用機序を解析し、関連する疾患のゲノム情報や新薬の安全性、その実験モデル提案まで、一貫した仮説を生成し、そのパスウェイマップも作成できる。パスウェイマップがあれば、標的分子の関係性が可視化されることで、新たな候補の発見も容易になる上、創薬のシミュレーションも可能となる。そのため、かつてのように闇雲に標的分子候補を選択するわけではないことから、成功確率が飛躍的に向上し、創薬に関して計り知れないメリットをもたらす。
新規性の高い標的分子候補を発見
7月には「DDAIF」の有効性を証明することを目的とした実験を実施し、すい臓がんの標的分子候補として約2万個のヒトの全遺伝子の中から、17遺伝子の抽出に成功した。これら17遺伝子の中で、6遺伝子は実験においてすい臓がん細胞の増殖抑制が確認されている。このうち、4遺伝子はこれまですい臓がんとの関連性を報告した論文が存在せず、残りの2遺伝子も論文での報告が1報のみで、極めて新規性の高い標的分子候補だった。「DDAIF」の「ひらめき」の効果といえよう。従来であればこうした標的分子の探索には2年以上かかったが、今回の実験ではわずか2日で結果が出たという。
「実験前には新規性の標的分子候補がそんなに簡単に見つかるわけがないとの声があった。しかし、実際に標的分子候補が発見され、しかも複数も見つかったことで、疑問を口にした研究者も驚いていた。今、創薬分野で成功するためには、First-in-Class(画期的な医薬品)の創薬が重要。今回の実験で、『DDAIF』を使えば、新規性があって有望な創薬標的分子候補を迅速に見つけ出せることがはっきりした」と、同社でライフサイエンスAI事業をけん引する豊柴博義取締役・CSO(最高科学責任者)はいう。
実験結果を踏まえ、同社は今後の研究指針を策定した。まずは発見した標的分子候補のシーズ化を目標とし、国内外のアカデミア、製薬企業との共同研究体制、エコシステムの構築の構築に取り組む。それとともに、「DDAIF」によるパスウェイマップを生かし、標的分子を阻害した際の遺伝子発現プロファイルと高い相関・逆相関を示す市販化合物や、合成ライブラリ候補をリストアップして、それぞれ検証し、その生物学的反応を模倣する化合物、抗体も見つけ、早期のシーズ開発へとつなげる。さらに、機能喪失型変異に基づく疾患の治療薬開発についても、独自の遺伝子ネットワーク解析を通じて遺伝的に関連する抑制因子を特定し、より創薬可能性の高い標的分子の発見に努める。
米国オクラホマ大学と共同研究開始
一方、国内にとどまらず、米国進出も目指し、1月に「DDAIF」を米国特許商標庁において商標登録した上で、米国のコンサルティング会社Q Partners LLC(創業者・代表佐久間美帆、シニアパートナー・久能祐子)と戦略パートナー契約を締結した。7月には米国におけるAI創薬事業の第一歩として、米国オクラホマ大学と共同で、新たな創薬標的の探索、ドラッグリポジショニング(既存薬の他疾患への転用)を目的とする研究を開始した。今後、希少疾患など市場規模の小さいアンメット・メディカル・ニーズ(治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)の高い疾患領域において、有望な創薬標的を効率的に同定することを目指す。
「DDAIF」の実績が積み上がっていることを背景に、創薬や共同研究に関する同社のパイプライン(新薬候補)は増加している。今3月期はAI創薬の受注件数の目標を10件としているが、第1四半期の段階で早くも8件を受注した。こうした状況に対して、同社の守本正宏社長は「足元は非常に好調で、今後もパイプラインは増加が続くだろう。中期的にライフサイエンスAI分野が当社にとって最大の成長事業とみており、今後も人員強化や新たな技術開発など積極的な投資を行う」と語った。さらに、「収益に関しては、製薬会社への導出による契約一時金、その後に研究の進ちょくに伴うマイルストーン収入、新薬の上市後にはロイヤルティー収入などが見込める。そして何よりも『DDAIF』の活用でかつてないほどのペースで創薬標的分子候補の発見が望める点が大きい」とも話している。
これからの同社は「DDAIF」など独自テクノロジーを起点に、各分野のスペシャリストとパートナーを組んで、エコシステムの構築を図り、日本の創薬事業に貢献していく意向だ。将来的には薬を必要とするすべての人に適切な薬が届く世界を実現するとともに、医薬品産業を自動車、半導体に次ぐ基幹産業へと成長させ、「日本を再び創薬の地」にすることを目指すという。中期経営計画では、29年3月期におけるAI創薬分野の売上高100億円(前3月期実績1億円)、AI医療機器分野の売上高30億円(同2億円)を目標としている。
FRONTEO(2158)は現在、自社開発の特化型AI(人工知能)「KIBIT(キビット)」について、ライフサイエンスAI分野のAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」に注力している。同サービスを活用すれば、十数年かかるといわれる創薬の標的分子の探索が劇的に短縮されるとし、実際に7月にすい臓がんの創薬標的分子候補を2日で抽出する事に成功した。今後は本格的な創薬事業に取り組んでいくとともに、さらなる新しい標的分子の発見にも力を入れる。将来的には同サービスの利用拡大により、創薬事業が日本の代表的な産業となる時代も予想されよう。
economic company
2025-08-26 12:45