独立系運用会社の特徴ある運用戦略を直販で届ける 「ベイビュー投信」がめざす新しい運用の世界とは

国内最大の独立系運用会社であり、1998年創業のベイビュー・アセット・マネジメントは、独立系運用会社として唯一、2025年2月にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)から運用を受託した。そして、4月には個人投資家向けに公募投信を直販すべく「ベイビュー投信」を立ち上げ、プライベート・デット(非公開の債権)で運用する投資信託「賢者の設計」の提供を開始している。ベイビュー・アセット・マネジメントは、グローバル株式運用でGPIFの運用を今回受託したように、国内外株式のアクティブ運用を得意とする運用会社だ。その会社がプライベート・デットの商品を直販で提供し始めた理由はどこにあり、今後、どのような事業戦略なのか。ベイビュー・アセット・マネジメントの創業者であり、代表取締役社長兼CEOの八木健氏(写真)に聞いた。
――2025年4月に新サービス「ベイビュー投信」を立ち上げました。公募投信事業を直販で始めた狙いは?
米国では運用資産残高の約55%を独立系運用会社が占めていますが、日本では証券会社や銀行あるいは外資の子会社が運用資産残高の約99%を占めています。子会社として運用していると、販売会社である親会社の意向に沿った商品を提供せざるをえません。顧客の資産を増やすよりも、いかに親会社の収益に貢献するかが求められます。販売会社が売りやすい商品、販売会社の手数料が稼ぎやすい商品を次々と作る傾向があります。これでは、日本において米国のように運用ビジネスが成長するはずがありません。
私どもが大事にしていることは3つあります。1つ目は、「独立系」ということです。親会社の意向に左右されず、運用に専心できます。当社は、27年の歴史を誇る独立系として1兆円を超える運用残高を獲得しています。2つ目は、「ブティックハウス(専門店)」です。得意とする運用に特化して徹底的に専門性を磨き上げています。国内の大手運用会社は子会社であるとともに、デパートのように多数の商品を品ぞろえし、似たような商品が大量にあります。当社には、私たちが厳選した独自の商品しかありません。そして何より、“顔の見える運用”を提供しています。
3つ目は、「イノベーション投資」です。1998年の創業以来、米国サンフランシスコを拠点とするシリコンバレーに継続してコミットしてきました。イノベーションの聖地である当地に本拠を構える3つの名門ブティックハウスと提携し、米国の小型成長株やベンチャー投資において優れた運用成果を提供してきました。社名の「ベイビュー」は、シリコンバレー・コミュニティーのあるベイエリアをイメージしています。
日本屈指の独立系運用ブティックハウスとして、私どもの資産残高は約1兆2000億円になっていますが、うち96%は金融機関や年金基金、また、ファミリーオフィスといったプロ投資家の資金です。創業当時から、プロ投資家を対象に事業を進めてきました。商品を見る目が最も厳しい、そうした機関投資家の信頼に応える努力を続けてきた結果、2025年2月に世界最大の投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)からも運用を受託する名誉に預かりました。
創業時から、いずれは個人投資家向けに自社の公募投信の直販をと志してきた中、会社の規模や実績などの面でも、いよいよ個人投資家の皆さまに当社を利用いただける体制が整ったと考え、2025年4月に「ベイビュー投信」を開設しました。販売会社を通じた間接的な商品提供では、独立系運用会社の良さを伝えられないと考えています。
例えば、2019年2月に当社が設定した米国小型株を投資対象とした公募投信は、複数の販売会社を通じて個人投資家に提供しています。しかし、設定後4年で基準価額は2倍以上に成長したにもかかわらず、資金流入が活発だったのは当初2年程度で、基準価額が2倍に向かって上昇していく過程で、どんどん資金が流出し残高は小さくなってしまいました。継続して保有していただければ資産が2倍になったにもかかわらず、販売会社の意向が働くと、個人投資家は「もっと魅力的な商品が出てきた」などといわれ他のファンドへ乗り換えてしまいます。これは、本当に投資家のためになっているのでしょうか。私たちは、時間がかかってでも、運用会社が自ら販売するという方法で、個人投資家の皆さまにトップクラスの商品を直接提供していきたいと考えています。
――「ベイビュー投信」の第一弾は「賢者の設計」という愛称を冠したプライベート・デット商品です。プライベート(非公開)資産に投資する商品が日本の公募投信として解禁されたのは2024年のことで、一般にはなじみのない商品です。「賢者の設計」を第一弾商品に選んだ理由は?
日本の個人金融資産は約2200兆円ありますが、半分の1100兆円あまりは「現金・預金」です。預金金利は最近上がってきたとはいえ年0.2%程度の利回りです。国は「資産運用立国」を掲げてNISA(少額投資非課税制度)を拡充することなどによって投資を促していますが、個人金融資産に占める「現金・預金」の比率はなかなか低下していきません。米国では個人金融資産にしめる同比率は12%です。日本の「現金・預金」比率が50%から低下しない理由は、預金に代わる魅力的な商品がないことも理由の1つだと思います。
「賢者の設計」は、「サプライチェーン・ファイナンス」の仕組みを使って、安定的な収益の獲得をめざすファンドです。日用品等の国際貿易において、輸出企業は商品等を納入した後に、実際の代金は1~6カ月後の期日までに輸入企業から受け取る仕組みになっています。輸出企業は中国を始めアジア圏の中小企業が多く、代金を受け取るまでの1~6カ月間の期間の資金繰りに窮します。従来は現地の銀行等が売掛債権(輸入企業による代金支払い義務)等を担保に短期融資を行っていたのですが、2008年のリーマンショック以降は、国際的に金融監督強化が進んだことで銀行は中小企業向けの融資に慎重になったため、中小企業向けの資金繰りを支援するファクタリング会社の業務が急拡大したのです。このファクタリング会社が仲介する融資の仕組みが「サプライチェーン・ファイナンス」です。「賢者の設計」は、ファクタリング会社を通じて輸出企業から売掛債権を譲り受けることで、輸出企業に短期資金を提供します。そして、売掛債権の期日に輸入企業から代金の支払いを受け取るのです。
売掛債権の支払いを行う輸入企業は、グローバルに事業展開する大手企業であるため支払いが滞るリスクはほとんどありません。「賢者の設計」では、輸入企業についてさらに厳選し、過去の取引履歴が良好な優良企業30~80社に限定して売掛債権を取り扱っています。そもそも期間が180日未満という短期の売掛債権がデフォルト(債務不履行)になるリスクは低いのですが、加えて、業種分類や地域分散、また、対象企業の信用格付け(S&P信用格付けで平均A-)なども精査することで、安心できるポートフォリオにしています。
このファンドは2018年から運用実績があり、日本だけで機関投資家向けに約3000億円の資産残高があります。「為替ヘッジあり」では過去6年間で信託報酬等控除後のリターンがマイナスになった年はなく、設定来で年率平均4.19%のリターン(円ベース)となっています。一方、「為替ヘッジなし」は、為替変動の影響があります。過去6年間の同年率平均は、円安・ドル高トレンドの下で11.19%のリターン(円ベース)です。
通常の公募投信と違って、「賢者の設計」は購入単位が100万円以上1円単位で、申込締切日は毎月1回です。また、換金時は1万円単位ですが、申込締切日から約2カ月半の期間が必要であるため、すぐに現金が必要と考える人には不向きです。つまり、短期の定期預金や国債等に投資する感覚で考えていただくのがよいと思います。例えば、現在募集中の個人向け国債では期間5年の固定金利が表面利率で年1.1%程度です。「賢者の設計」の類似戦略ファンドは、「為替ヘッジあり」で過去5年間の実績が年率4.2%と、国債を大きく上回るリターンが確保できており、大変魅力です。
――ベイビュー投信の今後の計画について教えてください。公募投信市場においてベイビュー投信が果たしていく役割は?
まずは、独立系運用ブティックハウスであるベイビュー・アセット・マネジメントについてよく知っていただきたいと考えています。「賢者の設計」の目論見書では、世界初となるマンガを使って商品内容を説明したり、月次レポートも運用の中身が分かりやすく伝わるようコラムを掲載するなど、いろいろと工夫しています。今後もベイビュー投信を通じたさまざまな情報発信を行っていきながら、当社と商品について広く知っていただきたいと思っています。
当社の運用ラインアップには、国内外の株式や債券、スマート・ベータなどに加え、ヘッジファンドやプライベート・エクイティおよびデットなどのオルタナティブ資産を対象とした商品があります。これらを時間をかけてひとつひとつ丁寧に説明しながら、個人向けの提供商品を徐々に広げていきたいと考えています。多くの個人投資家の方々にぜひ活用していただきたいと思っていますが、決して急いではいません。
私どもの運用拠点は、千代田区一番町にあります。国内金融の中心地である大手町・丸の内・日本橋とは、皇居を挟んで反対側にあります。この立地にもこだわりがあり、日本の金融村からは距離を置いて、独立性をアピールしています。国内の運用業界にはこれまでになかった独立系運用ブティックハウスとして、個人投資家からも評価していただける存在となり、資産運用立国という国家戦略において私どもなりの役割を果たしたいと考えています。
ベイビュー・アセット・マネジメントの創業者であり、代表取締役社長兼CEOの八木健氏(写真)に聞いた。
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2025-09-25 09:30