国内中小型グロース株のけん引役に浮上した「日本次世代経営者ファンド」、ファンドマネージャーに聞く国内成長株の行方

野村アセットマネジメントが設定・運用する「日本次世代経営者ファンド」が2025年4月以降の株高局面において、目立って好調なパフォーマンスになっている。日本の若い経営者にフォーカスした同ファンドは、「国内中小型グロース株」に分類されるユニークな特性だ。国内株式市場では「バリュー投資」が有効という見方が強い中にあって、「中小型グロース」というカテゴリーにありながら、「TOPIX(東証株価指数)」を上回るパフォーマンスになっている。同ファンドについて運用を担当する野村アセットマネジメント運用部(日本株アクティブ)小型シニア・ポートフォリオマネージャーの田中啓章氏(写真)に聞いた。
――ファンドは今年4月以降の株価上昇過程で「TOPIX(東証株価指数)」を大きく上回るパフォーマンスになっています。4月以降に同ファンドに何が起きているのでしょうか?
東京証券取引所の区分として「プライム市場」、「グロース市場」、「スタンダード市場」がありますが、当ファンドは「グロース市場」と「スタンダート市場」の比率が非常に高くなっています(2025年9月末時点:「プライム市場」比率36.8%、「スタンダード市場」36.6%、「グロース市場」25.8%)。「若い経営者が経営する企業を選別する」というコンセプトで運用しているため、国内の大手企業の経営者は50歳代、60歳代など高齢の方々が多く、IPO(新規上場)企業の中でも若い経営者は少ないので、結果的に投資対象銘柄は中小型銘柄が多く、とがったポートフォリオになっています。株価指数では「中小型グロース」に分類されるポートフォリオです。
国内株式市場は、2020年3月の「コロナ・ショック」以降は大型株優位の展開が続いてきました。「中小型株」指数は「大型株」に大きく出遅れ、「中小型株」の中でも「グロース(成長株)」に分類される株式の出遅れが顕著でした。これにはいくつかの理由があります。一つには2023年3月に東京証券取引所が上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請し、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して経営者に現状分析と改善計画の開示を求めたことが大きなインパクトになりました。
プライム市場に上場している企業は、その多くが歴史もあって金融資産や事業資産をたくさんもっています。コアの事業とは関連性の薄い子会社や不動産など本業とは関連の薄い資産や事業などは、売却して投資家に還元するよう求める声も強まっていました。そこに、東証からも要請が出たことで大型株の株主還元が積極化したことによって「プライム市場」上場の銘柄を中心に株価にプラスの反応が出ました。
また、「コロナ・ショック」以降に円安・ドル高が進みました。2020年に1ドル=106円台だったドル円が2024年7月には1ドル=161円台まで円安が進みました。この円安によって、特に大手製造業は海外の競合との競争において非常に有利な価格交渉力を持つことになり、業績をかさ上げしてきました。これが大型株の株価の追い風になってきたのです。そして、インフレになって賃上げが重要なテーマになると、やはり余力のある大手企業が賃上げのための体力もあるため、人材確保でも有利でした。
このように国内株式市場には「大型株」に優位な状況が続き、このためにウォーレン・バフェット氏が大手商社株を大量に保有したというニュースが出たり、円安局面のメリットを生かして外国人投資家が国内株を取得するようになりました。その際に購入される株式も「大型株」がメインですから需給の面でも「大型株」が有利だったのです。
「大型株」優位の展開が2025年になる頃に変化し始めました。東証要請による経営改善についても、「プライム市場」の銘柄の多くで改善がみられ、東証の市場改革に向けた取り組みは「プライム市場」から「スタンダード市場」や「グロース市場」の改革に移っています。「グロース市場」では時価総額が100億円にとどかなかったら「スタンダード市場」に移るというルールを厳格に適用しようとしています。「グロース市場」上場企業の経営者は「グロース市場」に残りたいという思いを強くしています。
また、東証としては「プライム市場」に続いて「グロース市場」と「スタンダード市場」のクオリティも高めたいと知恵を絞っています。米国では上場企業数が減少する傾向にあるのですが、国内市場は増加の一途にあります。上場企業数が増えるにしたがってクオリティが追い付いていないと考えているのです。
また、円安も一時の160円台から、一段と円安が進むという環境ではないかもしれません。円安方向に動く為替が安定したことによって、大手製造業の相対的な優位性が薄れ、内需中心の中小型企業との間でフラットな競争ができるような環境になってきました。このような変化が市場にはおこっているため、直近では出遅れていた中小型株を見直そうという動きも出てきているように感じています。
――ファンドは、中小型株ファンドの中で優れた成績を残しています。「経営者」に着目し、中長期の成長が期待できる企業に選別投資するということですが、具体的にはどのような企業を選んでいるのですか?
このファンドでは、若い経営者に注目し、中長期的な企業成長を評価しようという姿勢で投資しています。実際に経営者の方々に直接インタビューすることに力を入れています。大型株に対して中小型株の企業経営者の方が経営への影響力が強いため、経営者の目線が重要です。将来をどのように考え、どんな手段で目標を達成しようとしているのか。ゴールまでの道筋をキチンと考えているかどうかが非常に重要です。また、中小型株の場合は、社長自身がエンジニアであったり、コンサルタントであったり、現場で活躍している方も少なくありません。その場合、現場でのエピソードを聞かせていただくなど、決算書に出てくる数字以外の要素を、経営者、そして、従業員の方々への取材を通じて把握することに努めています。
中小型株の場合は、アナリストがカバーしていないケースも多く、その場合は、公表された決算等のデータに加えることができるのは、私どもが取材した内容だけという場合もあります。その際に、重要なのは社長の考え方です。
一般的に創業社長が大きくした会社などでは、代替わりをうまく行なうことは簡単でないと考えられていますが、しっかりした番頭役がいて、チームとして社長を支える体制ができているところは、評価できる場合があります。会社組織全体も含めてチームとして見ていくことが大事だと思っています。
――アナリストもカバーしていないような銘柄群から投資対象銘柄の候補を見つけ出すのは、スクリーニングによるのでしょうが、どのようなポイントで企業を選択しているのですか?
社内に「イノベーション・ラボ」と呼んでいる組織があります。資産運用先端技術研究部という部署なのですが、AI(人工知能)の技術を使ってテキスト・マイニングをするほか、さまざまな学術的な観点からも企業分析を行っています。このラボからリストの提供を受けてユニバースを作ることに役立てています。
スクリーニングの条件としては、まず、経営者・経営陣が若いことが第一条件です。代表者が40歳代以下というのを基準にしています。また、今後の大きな成長が期待できるためには、大企業が幅を利かせているメイン市場ではなく、ニッチな市場に着目し、ニッチトップである方が中長期的な成長が可能です。そういう点を考慮しながら、投資対象を絞り込んでいきます。
――現在の日本の環境は、ファンドが投資したいと考える「経営者」を輩出しやすい環境といえますか? アメリカにはシリコンバレーのように成長企業を生み出すゆりかごのような地域がありますが、日本にはそのような土壌はあるのでしょうか?
私が見ていて感じているのは、東京だけを見ていてもだめで、地方から生まれてくる面白い会社が少なくないです。宇宙関連、水産関連など、これから大きく育ちそうな産業で地方を本拠に頑張っている企業があります。また、製造業でもどこかに塊があるというのではなく、コアな技術を持っている会社が日本全国に散らばっているイメージです。大企業でも山梨や長野に主力工場や研究所があったり、関西や東海地方などにも分散して存在していると思います。
また、若い経営者との面談を重ねて感じるのは、以前でしたら、良い大学を出た優秀な人材は、大手商社か官僚か、あるいは大手銀行に勤めるということがひとつのパターンとしてあったかと思うのですが、今は、東大法学部を卒業しても官僚になるわけでもないのです。価値観が多様化しています。今の若い人たちは進んでベンチャー企業に就職したり、大手企業に就職後も転職をして視野を広げたり、起業することのハードルも低くなっていると思います。その意味では、国内市場で中小型成長株を発掘することにチャンスは広がっていると思います。
――中長期的なファンドの成長イメージをお示しください。
日本は少子高齢化が進んで経済規模が小さくなっていく方向にありますが、私は中小型成長株の将来を悲観していません。たとえば、メディア業界はテレビが凋落し、代わってSNSが台頭しています。メディア業界全体としての市場は縮小していくのかもしれませんが、その中でテレビや新聞といったオールドメディアの市場をネット系の企業がシェアを奪っていて、ネット系の企業には大きな成長機会になっています。
新興国の成長は、マクロ経済は発展していくのだけど、そこで活躍する業態はインフラ関連だったりしますが、日本は経済全体では成長していないですが、価値観の多様化にともなって、さまざまな新商品・サービスが生まれ育っていく可能性が広がっています。
たとえば、海外発のキャラクターが世界的にヒットした場合、それが将来、日本のキャラクター業界にも影響を与えるかもしれません。そこで、競合となる商品、あるいは、流行を支えている若い世代の時間の使い方などを調べていくと、そのキャラクターのヒットがプラスの影響を受けるところ、マイナスに働くところが考えられます。同じようなことは、いろいろな業界で起きています。何かがシェアを獲得すると、何かが失っているのです。そのような変化を捉えることができれば、国内株式市場にも多くのチャンスがあると考えています。
優秀な経営者でも高齢であった場合、どこかのタイミングで後継者問題が浮上し、業績は好調でも株価が崩れていくことがあります。その点、若い経営者であれば、長期目線での経営に期待できると考えています。また、若い経営者はAIやIT投資など新しいことに柔軟に対応するということができるプラス面も当ファンドのコンセプトに生きていると思います。当ファンドは、中長期の目線で成長をめざす若い経営者に投資するファンドです。3年、5年、10年という中長期の投資において強みを発揮するファンドだと考えています。
また、東証の市場改革は、今、「グロース市場改革」に焦点が当たっています。時価総額100億円以上というハードルに対して、中小型企業が本気になってクリアしようと動き出しています。この動きの先にあるのは、「TOPIX改革」です。今までは「TOPIX」の対象銘柄は「プライム市場」と限られていましたが、これからは、「プライム市場」や「グロース市場」、「スタンダード市場」の別なく、時価総額の大きな企業は「TOPIX」に入るようになります。そうなると、これまで「グロース市場」で成長した企業は「プライム市場」に昇格するという流れがあって、優秀な企業は全て「プライム市場」に集まり、「グロース市場」や「スタンダード市場」は「プライム市場」に昇格できなかった企業が多くなっていました。それが、時価総額さえ大きくなれば「グロース市場」であっても「TOPIX」の対象になるということになれば、「グロース市場」全体に良い影響が広がると考えられます。
「日本次世代経営者ファンド」について運用を担当する野村アセットマネジメント運用部(日本株アクティブ)小型シニア・ポートフォリオマネージャーの田中啓章氏(写真)に聞いた。
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2025-10-16 10:15