中長期的に2ケタ成長が期待できるインド株式、「インフラ」「消費」など4大成長分野がけん引=HSBCアセットのインド株式部門CIOに聞く

HSBCアセットマネジメントは今年9月18日に「HSBCインド・インフラ株式オープン(毎月決算・予想分配金提示型」を新規設定した。2009年10月に設定した「HSBCインド・インフラ株式オープン」が純資産残高で3000億円を超える大型ファンドとなり、2004年11月設定の「HSBCインドオープン」も純資産残高1200億円を超える大型ファンドだ。インド株式は同社の主力市場と位置付けられる。同社のインド株式部門CIOのベヌゴパル・マンガート氏(写真)にインド経済の現状と展望について聞いた。  ――2024年7月以降にインド株式市場が下落した理由を教えてください。  昨年7月以降にインド株式市場が伸び悩んだのには、いくつかの理由があります。1つには2024年にインドで総選挙があって、政府が新たなプロジェクトを実施できないという期間がありました。選挙の前後には公共投資が止まる関係でインド国内の生産活動が停滞する傾向が強いのですが、今回もその影響が表れました。2024年度第2四半期(7-9月)の実質GDP成長率は5.6%成長と6%を下回る水準となり、下半期の伸びも勢いに欠けました。この経済成長率の鈍化によって企業収益も減速しています。  また、2024年度の後半には株式市場の流動性が落ちてしまいました。2024年9月時点で株価のバリュエーションも高かったために、外国人投資家を中心に利益確定の売りが活発でした。また、インドルピーが下落した関係で外国人投資家のインドへの投資意欲が減退し、下半期には外国人投資家からの資金は流出超過になりました。  ――2025年4月の株価下落以降、先進国の株式市場は大きく反発し、米国をはじめ、英国、ドイツ、日本など主要な株式市場で過去最高値を更新する大きな上昇相場になっています。先進国株式市場と比較してインド株式の上昇力が弱いのは、何が原因なのでしょうか?  4月以降は景気改善を期待する動きも出始め、外国人投資家もインド市場にもどってきつつあったため、比較的堅調な市場になっていました。しかし、7月に米国がインドに対して25%の追加関税をかけ、世界で最も高い関税率になることが発表されて再びセンチメントが悪化しました。7月から9月にかけては外国人投資家も売りに転じたこともあって市場はかなり神経質な動きになりました。  ――米国トランプ政権の関税策はインド経済にとってどのような影響があると考えていますか?   インドからアメリカへの輸出については最大で50%の関税がかかることになっています。アメリカへの輸出額はおおむね870億米ドルで、GDPの2.2%程度に相当します。この870億米ドルのうち、関税の対象外となっている医薬品材料や携帯電話などの電子製品もあり、対象外の商品を除くと、米国の関税強化によるインパクトはGDPに対して0.8%程度の水準になります。また、関税対象の一部の商品である革製品や宝飾品などは株式公開企業ではない企業が多く関連しているので、米国の関税強化の株式市場への影響は、さほど大きくはないと考えられます。  心理的なインパクトについても報道によるとインドと米国の交渉は続いているということですから、歩み寄りの内容等が明らかになってくれば、徐々に落ち着きを取り戻すものと考えています。  ――選挙の年には落ち込むといわれたインドのインフラ投資計画についての当面の見通しは?  政府の支出はかなり戻ってきています。2025年3月までの投資支出は10兆インドルピーを超える水準になりました。当初の予定では11兆インドルピーでしたから、予定をやや下回る水準で着地しました。2025年度(2025年4月~26年3月)の上半期は政府支出が前年同期比43%増になりました。特に第1四半期に年度予算の38%以上に相当する支出があり、かなり前倒しで政府の投資は動き出しています。  ――現在進んでいる代表的なインフラプロジェクトは?  発電・送配電の分野、特に再生可能エネルギー分野への投資に政府は積極的です。2030年までに再生可能エネルギーの発電量を500ギガワットにするという計画を進めています。現在の水準は225ギガワットですから、約2倍に拡大する計画です。この中心をなすのが太陽光発電です。そして、この再生可能エネルギーの拡大に合わせて送電網の整備も重点計画になっています。政府の「国家電力計画」では2032年まで送電網に巨額な投資を行う計画が示されています。  また、防衛産業も政府の支出が大きな分野です。政府として防衛装備品の国産化を強化する狙いもありますが、防衛関連機器の輸出拡大もめざしています。現在のところ防衛関連機器の輸出額は28億米ドル程度なのですが、これを2030年までに100億米ドルを超える規模に拡大する計画です。  そして、民間部門の投資を政府が後押しする形で進める電子製品の製造力強化があります。現在、国内で製造されている電子製品は1000億米ドル相当ですが、これを2030年までに5000億米ドル規模にまで拡大する計画です。主力の携帯電話の他、ラップトップPCその他の電子部品や製品の製造拠点等の整備に補助金を出します。また、新しい分野として政府が注力するのが半導体の分野があります。政府としてインドに半導体のエコシステムを作りたいという計画があり、既に国内で10件程度の半導体関連プロジェクトが立案され、政府はこれに補助しています。  この他にもグリーン水素、データセンターの建設など、今後5年~7年の間に大きなプロジェクトが目白押しです。  ――「HSBCインド・インフラ株式オープン」の基準価額は2023年から2024年7月までの1年半くらいの間に非常に大きな上昇となりました。当時のような上昇は当面は期待できないのでしょうか?  2023年から24年にかけて政府による大規模なインフラ投資が行われました。そもそも2020年のコロナ禍によるダメージを回復するための投資計画から始まっています。政府のインフラ投資の規模はGDP比で1.9%程度の水準でした。それが、2023年に2.8%に拡大し、2024年には3.2%の水準に上がりました。この政府支出の増大を背景にインフラ関連株式の大きな上昇がありました。  2024年のインフラ投資額はGDP比で3.2%程度、2025年は2024年比で7%程度の支出増になっていますが、GDPの水準も拡大しているため、対GDP比では3.1%~3.2%程度の水準を維持する水準になりそうです。現在、インドのGDPは名目で9%~11%程度の成長率があります。この成長率に合わせてインフラ関連投資も途切れなく進んでいくことになります。このため、インフラプロジェクトの進み具合などによってインフラ関連が再び脚光を浴びることがあるかもしれませんが、インド全体が伸びていく中でインフラ関連も、それに負けずに伸びていくことになると考えます。  ――インドに投資することを考えた場合、インフラ関連株式の位置づけは?  「インフラ」はインド経済にとってこれまで非常に強い成長ドライバーでしたし、投資テーマとして今後も強力で重要なテーマの一つであり続けると思います。  インド経済は急速に発展、成長していますが、その中でも重要なテーマが4つあります。その1つは「インフラ」ですが、そのほかに「消費」、「金融」、「デジタル」があります。政府も「インフラ」だけでなく、多くのテーマに焦点をあて、それぞれにインセンティブを与えて成長を促す政策を行っています。ですから、「インフラ」だけが特別な成長分野だということではなく、インド経済全体の成長に注目し、魅力的な投資機会になっていると思います。  ――2024年にインド株式市場は足踏みをしましたが、今後も成長が期待できる魅力的な市場といえるのでしょうか?  インド経済は実質GDP成長率で5%~7%の水準で中長期的に伸びていく経済です。すでに4兆米ドルの経済規模に成長していますが、今後も名目GDPで年率10%以上の成長が期待され、現在の経済規模は7年後には2倍の8兆米ドル以上の規模になっていく計算になります。  通常、名目GDPが10%以上成長する国にあっては、その国の大企業はGDPを少し上回る成長が可能です。中小型企業で、経営が優れた企業なら、大企業を上回る成長も可能でしょう。年率2ケタを超える企業成長が可能な市場がインドの株式市場といえます。非常に魅力的な投資機会になっています。ぜひ、インドの株式市場に注目していただきたいと思います。
HSBCアセットマネジメントのインド株式部門CIOのベヌゴパル・マンガート氏(写真)にインド経済の現状と展望について聞いた。
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2025-11-26 01:00