「世代間の富の大移転」が本格化、ナティクシスが資産運用業界を飲み込む巨大潮流を展望

「グレート・ウェルス・トランスファー(世代間の富の大移転)」が金融機関や資産運用会社の経営を大きく変えるといわれている。この「富の大移転」に対応できた企業は成長を加速し、大移転でビジネス機会を失った企業は負け組として淘汰される可能性があるという。欧州ではUBSによるクレディ・スイスの買収(2023年)、BNPパリバによるアクサ・インベストメント・マネージャーズの買収(2024年-2025年)など近年大型の企業統合が相次いでいる。運用会社の統合は直接的には世界的な運用コストの引き下げ競争やIT投資の巨大化、規制対応などが背景にあり、「富の大移転」の結果ではない。ただ、規模拡大によって運用サービスを拡充した会社は「富の大移転」でも有利な戦いを展開できるだろう。フランス・パリに本社を置く運用資産1.5兆ドル(2025年12月末)を擁する大手運用会社ナティクシス・インベストメント・マネージャーズは2026年4月に、「富の大移転に関するレポート」を発表した。同発表の内容から、運用業界で起きている大きな潮流の変化を確認しておきたい。  「グレート・ウェルス・トランスファー(世代間の富の大移転)」とは、「ベビーブーマー世代」(2026年時点で62歳~80歳)から、82兆米ドル(約1京3000兆円)以上の資産が相続人に受け継がれることをいう。2026年には、第2次世界大戦直後の1947年~1949年に生まれた初代ベビーブーマー(世界で約11億人)が80歳を迎え、資産を誰が引き継ぐのか具体的に決定するタイミングを迎える。ナティクシス社の調査は、このタイミングをとらえて世界21カ国の投資家7050名を対象に実施したもの。また、ファイナンシャルアドバイザーに対しても世界20カ国、アドバイザー2700名を対象にして「富の大移転」の影響についての調査も併せて実施している。アドバイザーに対する調査では、回答者の33%がすでに世代交代による顧客離れが起きて資産残高が大幅に減少したと報告している。  同レポートによると、相続した資産を誰が管理すべきかという点について、「ベビーブーマー世代」の66%は「すでに資産を別のアドバイザーに移管した」、あるいは、「移管する計画がある」と回答。資産を受け継ぐ世代である「X世代(46歳~61歳)」では48%が「現状維持」と回答。「ミレニアル世代(30歳~45歳)」でも50%が「現状維持」と答えている。相続対象者のおおむね50%が資産管理アドバイザーを変更する意向を持ち、既存のファイナンシャルアドバイザーが経営上の大きな課題と意識するのは当然のことといえる。  そして、資産管理を継続的にまかされるアドバイザーの条件として最も重要視されているのは、「顧客の家族について理解を深めるために時間を割く」ということだった。「運用実績」は顧客がアドバイザーとの関係を継続する理由として上位(23%)にあげられているが、顧客が離れる主因ではない。両親の資産を適切に運用しなかったことを理由にアドバイザー契約を解約したのは8%に過ぎなかった。このため、アドバイザーの76%は資産移転時おいて資産を維持する最善の戦略は、「家族全体との長期的な関係性の構築」にあると考えている。  一方、世代ごとの資産運用に関する考え方を調べると、世代間の違いが浮き彫りになっている。「ベビーブーマー世代」はリスクに対して最も保守的だ。資産形成のためにリスクを取る意向があると回答したのは42%だった。プライベート・アセット(29%)や暗号資産(16%)への投資意欲が最も低くなっている。一方、相続目的の資産を長期投資に回すことに前向き(63%)であり、52%はパッシブ運用だけでは損失回避に十分ではないと考えている。  「X世代」は、投資家の63%がボラティリティを資産形成の機会と捉え、55%がプライベート・アセットへの投資はポートフォリオのリスク管理に有効と考えている。また、暗号資産についても38%が投資額を増やす、または、投資を開始する計画だ。  「ミレニアル世代」は、最もアグレッシブで、75%が市場を上回るリターンを追求していると回答。また、プライベート・アセットを55%が投資対象とし、46%がすでに暗号資産に投資している。アクティブETFにも関心が高く、62%が選好する投資信託がETFとして提供されることを望むと回答している。  また、AIの進展を背景に「ミレニアル世代」の57%、「X世代」の49%がロボアドバイザーを利用する可能性が高いと回答している。「ベビーブーマー世代」では関心を示したのは34%に過ぎなかった。ただ、次世代の投資家がAIやデジタルアドバイスに傾倒しているとはいえ、実際の投資アドバイザーと同程度に機械を信頼しているわけではない。  意思決定を行う際、ファイナンシャルアドバイザーをもっとも信頼すると回答したのは、「ベビーブーマー世代」が94%、「X世代」が91%、「ミレニアル世代」が90%だった。また、投資ニーズは個人的なものであり、個別化されたアドバイスが必要であることも認識している。このため、アドバイザーとの関係において重視することは世代を超えて共通していて、(1)財務計画のアドバイスを提供すること(47%)、(2)投資に関する理解をサポートすること(39%)、(3)個々の状況を理解すること(33%)を挙げている。  このような調査結果を踏まえると、今後、「ベビーブーマー世代」の資産が「X世代」や「ミレニアル世代」に引き継がれていく中で、次世代のニーズが強い「プライベート・アセット」や「暗号資産」、「ロボアドバイザー」などのサービスを提供することの重要性が一段と高まる。いずれも伝統的な株式や債券の運用とは異なる分野の投資資産やサービスにあたるため、これらを自社で揃えようと考えると相当のコストを覚悟しなければならなくなるだろう。大手運用会社では、特定分野で実績のある会社を買収することでその分野を強化することも活発に行われている。  ブラックロックがHPSパートナーズを経営統合することでプライベートクレジット分野を強化(2024年-2025年)、メットライフによるパインブリッジの買収も債券・オルタナティブ投資の強化が目的とされた(2024年-2025年)。現在、世界の資産運用業界ではオルタナティブ投資(PE、プライベートクレジット)強化がトレンドになっている。「富の大移転」によってオルタナティブ投資に抵抗感が少ない次世代が資産運用の中軸を担う存在になりつつある今、運用会社も体制強化に動いている。  そして、日本国内の資産運用市場は、海外の運用会社から見ても非常に魅力的な存在になっている。政府が「資産運用立国」を宣言し、新NISAなど資産運用環境を積極的に整備。家計の現金保有比率が高く、運用資産の拡大が期待される。実際に日本国籍の投信の純資産総額は2023年の成長率で18%と、北米の12%、欧州の8%、世界平均の10%などと比較して最も大きな成長を実現した市場になっている。今後も年率2ケタの成長が期待され、巨大化してグローバルサービス余力もついた大手運用会社が積極的に参入し、シェア拡大をめざす有力な市場と位置付けられている。  この外資系運用会社による日本向けサービスの拡充が、今後、国内の投信市場にさまざまな変化をもたらすものと考えられる。また、国内の運用会社も国内市場の拡大を取り込んで成長機会とするほか、サブ・アドバイザーとして海外の運用会社の運用エンジンを自社商品に取り込むなど、外資の力を積極的に活用したサービスを提供することなどが考えられる。
「グレート・ウェルス・トランスファー(世代間の富の大移転)」が金融機関や資産運用会社の経営を大きく変えるといわれている。(イメージ提供:123RF)
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2026-04-16 13:30